マーシャル・バイオリソーシス・ジャパン株式会社
ハッピーマット Q&A
よくある質問
〇環境エンリッチメントについて
Q1:そもそも動物実験にて環境エンリッチメントを使用する必要はあるのでしょうか? A:現在、適正な動物実験実施には、動物福祉が必須であり、世界的に社会からの要請としても、求められています。 環境エンリッチメントの主要目的は動物のウェルビーングを増進することです。ILARの定義では、「環境エンリッチメントは動物種に固有の行動を発現しやすくなるような刺激、構造物および資源を提供するもの」と規定されています*1。 各動物種が進化的にどのような生活環境の下、その種特異的な習性を獲得するに至ったかを深く知ることは、適切な動物実験環境を考える上で非常に重要です。 現在、ARRIVEガイドライン*2にて、環境エンリッチメントが言及されています。その理由はストレスを軽減させ、動物実験の再現性の向上を期待しているからです。 また、実験動物に特化した行動学の専門書*3にも、動物の自然行動を知り、環境を整えることが、アニマルケアに不可欠であると示されています。環境改善により、異常行動を迅速に発見でき、素早い対処につながります。 総合的に環境エンリッチメントにより、動物種毎に適正な環境を整えることは、再現性や信頼性の高い動物実験につながり、研究にとってメリットにつながります。
Q2:ハッピーマット(HM)のメリットを教えてください。
〇ハッピーマットについて
Q3:ハッピーマット(HM)のデメリットを教えてください。 A:以前、企業向けにアンケートを取った際には、「特になし」との回答が最も多かったです。ただ、具体的なデメリットとしては以下がありました。 1.使用の程度の違い 原則すべてのマウスが使用しますが、個体によって使ったり、使わなかったりする場合があります。一方、ラットではストレスがかからない場合には、ストレス解消のための使用は少なくなると聞いております。 ただ、動物実験ではストレス負荷があり、その解消のため、選択肢の1つとして使用される場合があります。 2.HMによる絡まり 素材の頑丈さゆえにですが、ケージの金網部分に絡まることがあると聞いたことがあります。その場合、お手数ではありますが洗浄時に個別に取り除いていただくか、洗浄をやや強めになさっていただけると非常に幸いです。 3. HMによる水漏れ 床敷量が多いと、ほぐされたHMが、一部の製造元の給水ノズルでは先端部に挟まり、漏水する場合もあると聞いています。この場合は、床敷の量を減らして、物理的にHMとノズルが触れる機会を減らしていただければ幸いです。
〇使用時のご質問について
Q4:ハッピーマット(HM)がほぐされていないマウスケージがあった場合、どうすればいいのですか? A:マウスではほとんど聞いたことはございません。原則、すべてのケージでほぐされていると聞いています。 ただし、過去には床敷量が多い場合に、床敷を巣材として使用し、HMをほぐさないことがあると聞いています。このように床敷量が多い場合は、HMは巣材として使われづらくなることもあるようです。 この場合、マウスが見えにくいということもあるため、床敷量を減らし、巣材をHMに変えることで観察がしやすくなると期待しています。
Q5:ハッピーマット(HM)を入れても闘争していたら、どうすればいいですか? A:HMを入れても、お互いのマウス同士が見えているケースがあります。これは隠れる場所が少ないことによる発生しているかもしれません。この場合、1枚多くいることで隠れる場所を増やしてあげるのはいかがでしょうか。 また、床敷交換時に、使用済みのHMをそのまま新しいケージに移行することで、元の環境の匂いを移動させることが可能です。新しい環境によるストレスの軽減が期待できます。 なお、過去の事例からは、闘争中や闘争後にHMを入れても効果は低いと考えられます。そのため、マウスの飼育当初から、HMを投入して闘争を予防されることをお勧め致します。
Q6:マウスの食殺が多い場合は、どうすればいいでしょうか? A:HMは巣となり、そこでの出産仔への保温機能が期待されます。巣材として、HMはティッシュや隠れ家等と比較した場合、離乳率向上との発表がございます*9。 巣作りに要する日数を考慮して、HMは出産の3日前までには投入することをお勧め致します。さらに、巣の大きさが不十分なようでしたら、もう1枚追加することも対策として考えられます。
Q7:ハッピーマット(HM)は繰り返し使用できるといいますが、衛生状態は大丈夫なのですか? A:HMは、麻でできており、衣服の原料にも使用されている素材です。夏場に着用される衣服に多い素材となり、特徴は、乾燥しやすく水分を吸いづらいことが挙げられます。 このため、HMは糞尿を吸収しづらく、アンモニア濃度上昇などに直接、影響を与えないことが期待できます。尿が残りにくいため、再利用しても、HMそのものからはアンモニア濃度が上がりづらいと考えらます。 なお、HMを移動させる際には、糞は落としてから再利用されることをお勧め致します。
Q8:ハッピーマット(HM)の繊維がヌードマウスの皮膚やまつ毛がない眼球などを傷つけることはないですか? A:HMは麻でできており、服の繊維にも利用されています。皮膚への刺激は紙や木製に比べれば、少なく、眼球を含めて傷をつけることは少ないと聞いています。
Q9:繰り返し使用する場合、ハッピーマット(HM)と床敷の交換のタイミングを教えてください。
Q10:ハッピーマット(HM)は天然素材ですが、天然素材はロット差が大きいのではないですか? A:ご指摘の通り、天然素材は天候や土壌等による影響が考えられます。本製品では、英国の契約農家で大規模に栽培し、収穫しており、ばらつきの低減に努めています。また、コンタミナントなどは毎ロット抜き取りで検査を実施し、異常がないことを確認しています。 なお、人工物は天然素材に比べて、動物にとってはストレスになるという論文もあります。実際に複数の環境エンリッチメントを入れたケージにてほかの人工物に比べてHMへ嗜好性を示すと聞いております。これは、天然物の方が、動物へ感覚刺激を与えやすいためと考えられています*14,15。
Q11:何度もオートクレーブできる人工物の方がいいのではないですか? A:通常は環境エンリッチメントを何度もオートクレーブなど滅菌することは少ないと考えています。 HMの場合には、繰り返し利用は、次のケージへの直接利用となり、一度のオートクレーブで十分となります。 なお、γ線滅菌しているため、オートクレーブ滅菌する必要はありませんが、実施しても素材として問題なく、繰り返し実施することも可能です。 天然物の利点としては仮に大量に環境中にあると、動物の五感刺激、糞便中コルチコステロン濃度低下、行動量増加、仔の体重増加等といったポジティブな影響が挙がられます*14,15。
Q12:給水ビンに、ハッピーマット(HM)が挟まり水漏れする時はどうすればいいのですか? A:給水ビンの一部の製造メーカで生じることを伺っています。この場合、給水口と床敷の床面の距離が近く、HMの挟まり、水漏れが生じます。 対策として床敷の量を少な目にすることが挙げられます。床敷の量を減らすことはコスト削減にもつながります。また、床敷を減らしても、HMが代わりに保温効果や隠れる場所としての巣の機能を果たすことが期待できます。
Q13:ラットの金網ケージに、ハッピーマット(HM)が絡まる時はどうすればいいですか? A:HMの巣材としての構造を維持する際、繊維の頑丈さは大切な特徴の一つになります。三次元構造を維持するためには適切な長さと強さが必要になります。 よって、その長所があるがゆえに、金網等への絡まりはなかなか防ぎづらくなります。根本的な解決は、平床のケージへ変更することをお勧めいたします。
Q14:ハッピーマット(HM)に、消費期限はありますか、また、保管によって品質は劣化するですのか? A:HMは天然の麻を乾燥し、それを真空パックで梱包しております。通常の保管環境では素材として劣化するものではありません。 基本的に使用期限もなく、真空パックしており、温度や湿度の特別な管理も不要です。ただし、開封後に高温多湿や直射日光が当たる場所で保管することがあるようでしたら、なるべくお早めにご使用いただくことをお勧めいたします。
Q15:ハッピーマット(HM)を使用し、マウスやラットに何か悪影響はないですのか? A:現在まで多数の研究機関で使用いただいていますが、マウスやラットへの悪影響はほとんど聞いておりません。 少数例ですが、以下の2件を伺っています。 事例1. 床敷量が比較的多い場合、HMの先端が給水ビンに挟まりこむことがあり漏水となった。 解決策:床敷量を減らし、空間を作る。 事例2. HMの繊維が足等に絡まった 解決策:見つけたら、すぐに、ほどいてあげる
Q16:人に対して、ハッピーマット(HM)が何か悪影響を及ぼすことはないのですか? A:作業される人ですが、マスクや手袋をして作業しているため、悪影響はほとんど聞いておりません。 ただし、飼育室ではない場所で準備する際は、開封やカットする際に開封時の細かい埃やチリが気になる場合があります。この場合、安全キャビネット内で開封して、ハサミなどでカットすると粉塵の暴露を防ぐことができると期待できます。 また、アレルギーの心配も過去に伺っております。麻は素材として、服や袋、ロープ、鞄など日用品として使われてきており、日常的に活用されております。アレルゲンとして、危険度は低いと考えていますが、症状を起こした方がいらっしゃれば、使用をやめられることをお勧めいたします。
Q17:ハッピーマット(HM)から細かい粉や切れ端が舞って困るときがあります。なんとかなりませんか? A:1枚1枚を切り放す際に、特に粉や切れ端が舞いやすいかもしれません。 一つの工夫としては、切り離す際に安全キャビネット内でハサミを使用することで粉塵の暴露を最小限にできると期待しています。
Q18:ハッピーマット(HM)は、マウス、ラット以外には使えるのですか? A:HMはマウスやラットを想定して開発されています。 モルモットやウサギに試された方からは、動物が食されて、消化管不良に至ったことを伺っています*16。このため、マウス、ラット以外でのご使用はおやめください。
〇製品やその他のご質問について
Q19:梱包している箱がつぶれていました。何か保証してくれるのですか? A:外装の段ボールですが、英国からの到着時に仮につぶれていたり、損傷したりしている場合には、日本到着時に新しい段ボールに梱包し直しています。 通常の宅急便の取り扱いであれば、国内での輸送途上における問題は少ないと考えられますが、配送によっては荷重が多くかかるなど損傷が生じるかもしれません。こちらは、不可抗力となり、ご容赦いただきたくお願い申し上げます。 なお、その場合においても内装の袋は真空状態が保たれており、製品の品質自体に問題はありませんので、通常通りご使用いただけます。到着時にお気づきの点がございましたら、当社までご連絡いただけますようお願いします。
Q20:在庫が切れることはないのですか? A:製品は英国製となり、通常、船便で運んでいるため、需要を予測し、あらかじめ余裕をもって日本へ輸入しています。このため、通常は3営業日以内にはお届け可能です。 今後、有事、大口の注文が重複するなどのケースで急激に在庫が少なくなるケースが生じれば、緊急輸入することも選択肢と入れ、供給不足とならぬよう手配に努めます。
Q21:分析レポートが同じですが最新のものをくれませんか? A:当社ではHMを英国から輸入する際に、ロットごとに分析レポートを入手しています。 真空パックで滅菌している状態であるため、保管中に検査することはしていません。消費期限も特に定めておらず、使用できると期待しています。
Q22:梱包形態を教えてくれませんか?
Q23:価格が他のティッシュ等の環境エンリッチメントに比べて高くないですか? A:素材そのものの価格、英国からの輸入などにより価格設定しており、ほかの素材や商品より価格が高いかもしれません。 一方、環境エンリッチメントとしての機能として試験全体へポジティブな効果があると期待しています。闘争が減ることによる使用できるマウス数の増加、繰り返し使用することによる人件費、手間の軽減が期待できます。 現在、HMを採用された研究機関では費用対効果が他製品より高いことで採用していただいたことを聞いております。
Q24:価格をさらに安価にすることはできないのですか? A:直接、販売し、代理店も入れないことで安価な提供にと務めています。 まとめてのご購入の場合、選択肢として、10 - 49箱では5%、50箱以上の場合には10%割引きさせていただきます。HMは特に消費期限があるものではございませんので、ストックとしてもっておきたい等のご事情により、まとめてのご購入にてお役に立てましたら非常に幸いです。
Q25:もっと大きめのサイズもつくってくれませんか? A:本製品は、麻を年間の中で決められた期間で一括して回収し、全世界のお客様向けに製造しています。現実的にマウスやラットでのケージでの使用に際して最も使いやすいサイズを当初検討し、現在の大きさに落ち着きました。 現状、製造工程上、一括して原料投入や裁断が行われており、変更をすることが簡単ではありません。 ご使用者の中には、一枚を真ん中から2つに分けて半分量で使用されている方もいらっしゃいます。また、大き目 (4枚や6枚) をつなげた状態で入れてる方もいます。 なお、大きさ違いについては大量の購入をお約束いただければ、製造工程から見直すことも可能です。 現状としては、大きさを変更することがすぐには難しいため、施設ごとで半分量、4枚をつなげてなど工夫してご使用いただけると助かります。
Q26:使用された文献例が少なくないですか? A:マウス等で日常的に活用している場合、採用後に発表をするケースは少ないことが挙げられます。 検討段階にて、闘争防止や離乳率向上等を検討されていることも伺っていますが、施設内情報として外部で発表されることがない場合もございます。 一方、収集した情報などは当社ミニウェビナーなどで紹介したり、実験動物技術者協会や実験動物学会等での年次集会にて発表されたりしております*4,6,7,8,9,10,11,12,16。時に、使用や検討されている施設の方々に、外部発表もお願いしております。
(参考文献)
*1: Guide for the Care and Use of Laboratory Animals 8th Edition”(National Research Council 2011)
*2: The ARRIVE guidelines (Animal Research: Reporting of In Vivo Experiments) 2.0
*3: Kristine Coleman, Steven J. Schapiro, etc, The Behavioral Biology of Laboratory Animals, CRC Press, 12 Aug 2021
*4: 石川玄 安倍宏明、マウス環境エンリッチメントに関するアンケート調査、静岡実験動物研究会 2021年 第48回研究発表会
*5: H. Jeong S.Watanabe etc, Feasibility of Long Term Social Housing in Male ICR (CD1) Mice When Providing a Complex Environment, SOT 2021 Abstract No.2342 Poster No.P218
*6: 江藤美穂 竹ノ上翔太他、ICRマウスの4週間飼育における巣材の有用性の検討、実験動物技術者協会九州支部 2019年 発表会
*7: 安倍宏明 James Harrison、英国マーシャル社繁殖施設におけるHappi-Matsの評価、実験動物技術者協会総会 2018年
*8: 石川玄 安倍宏明他、げっ歯類用環境エンリッチメントHappi-Matsによる行動特性の違い、静岡実験動物研究会 2018年 第46回研究発表会
*9: 松尾浩希 攝田友香他、新規巣材の検討、実験動物技術者協会関西支部 2019年 春季大会
*10: 谷川久子 寳珠山五月他、麻繊維マットによるラットの足蹠保護効果、日本実験動物学会総会 2019年 ポスター
*11: 須波英雄 前野孝之他、ラットの長期飼育に用いる休息板(Happi-Mats)の有効性調査、日本実験動物技術者協会総会 2019年 一般演題O1-9
*12: 平山崇徳 安田萌他、麻製エンリッチメント(ハッピーマット)の有用性検討、日本実験動物技術者協会総会 2024年 ポスター
*13: Van Loo, et al., Modulation of aggression in male mice, Influence of cage cleaning regime and scent marks, Animal Welfare, 9, 2000, no.3, 281-95
*14: Casey J Acklin, Ruth A Gault, Effects of natural enrichment materials on stress, memory and exploratory behavior in mice, Lab Anim (NY). 2015 Jul;44(7):262-7.
*15: Kelly Lambert, al, Natural-enriched environments lead to enhanced environmental engagement and altered neurobiological resilience, Neuroscience. 2016 Aug 25:330:386-94.
*16: 石川玄 安倍宏明、Happi-matsアンケートまとめ、マーシャル・バイオリソーシス・ジャパン㈱調査、2020年8月28日